おわりなきたそがれのまち

この星は、その形成過程から特殊な地殻構造を有し、重心が星の中心からずれている。
その結果この星は、私たちの月が地球に対し同じ面を向け続けているように、常に同じ面を恒星に向けている。1回公転する間に1回自転する、という言い方をする人もいる。
そのため、この星では「昼」とは恒星の輝く「方角」であり、「夜」とはそれとは反対の「方角」である。


有史以来、真昼に到達した者はいない。というのも、真昼の手前で激しい砂嵐に吹き上げられてしまうためだ。
それでも、しばしば無謀な冒険家が真昼を目指し、追い風に乗って街を出て行く。
この星では基本的に風は夜から昼に向かって吹く。ちなみに気球を飛ばしてみればすぐに判るが、上空では昼から夜に向かって風が吹いている。


しばしば誤解される事だが、この星にも季節の変化はある。というのも、この星の公転軌道が楕円形を為し、公転によって恒星との距離が変化するためだ。


気温が最も快適な事から、人々は帯状の黄昏地帯に街を作った。
もちろん昼にも夜にも町はあるが、社会の中心は黄昏である。夜の田舎から来た者は黄昏のまぶしさに目をくらませ、昼の田舎から来た者は黄昏に初めて衣服の装いに目覚める。