Xは配偶者AがBとまさに姦通しようとする現場に乗り込み、Bの顔面を殴打し、これによりBに加療1週間を要する傷害を負わせた。
Xの罪責を論ぜよ。

Xの行為は傷害罪の構成要件に該当する。
それでは正当防衛が成立しないか。
「不正」とは違法なことを言うが、必ずしも犯罪に限られない。から、急迫した貞操義務違反による不法行為に対する防衛も認められうる。本件では急迫不正。顔面殴るくらいは相当。よってOK。
うーん。刑事犯罪に限らないということで、例えば著しく不公正な新株発行を殴ってやめさせるとか考えたけど、その辺だと急迫性がどうかなって感じ。やっぱ不倫は作例に便利だ。…べつにNTR好きなわけじゃないよ!ほんとだよ!だってNTRは身分犯だからね!


気になった法律関係の記事を幾つか。

患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものであるところ,本件は,そのような事案とはいえない。したがって,上告人らについて上記不法行為責任の有無を検討する余地はなく,上告人らは,被上告人に対し,不法行為責任を負わないというべきである。

最高裁第二小法廷 平成23.2.25 平成21(受)65 損害賠償請求事件

どの要件に引っ掛けてこのように言ってるのかは一見明白とは言えないけど…。
医療契約によって医師が負う債務は手段債務だから、「不適切な医療行為」は債務不履行になる、と思う。
もっとも普通は不適切な医療行為があればそれにより身体に損害が発生するから、そのような損害を請求することになる。
ところがどっこい損害の費目が「適切な医療行為を受ける期待権の侵害」となると、そのような期待権が果たして損害と言えるのか。医療行為は手段債務と言っても結果実現のための手段なので、健康上の損害が無い場合に損害を認める必要は、基本的に、無いように思われる。*1
もっともそうは言っても、普通は想定できないくらい著しく不適切な医療行為が行われたら、もしかしたらさすがに期待権侵害として損害を認めても良いかもしれない。にわかに想像できないけど、宇宙に絶対はないってメーテルが言ってたから、そういう余地は残しても良いのかも。
そういうわけで、「損害」の要件に引っ掛ければ、上記最判の言うことは理解できそうな気がする。不法行為責任の有無を検討する余地はなくっていう説明はよく解らないけど。
前述のとおり普通は不適切な医療行為があれば健康上の損害があるし、健康上の損害が無いのに医者が損害賠償責任を負うとしたら基本的には変な話だし、わりと常識的な判決の気がする。

楽天ファウルボール訴訟 負傷男性の請求棄却 仙台地裁判決
…(Kスタ宮城)の内野席で…楽天…の試合を観戦中、ファウルボールでけがをしたのは球場の安全対策に不備があったためだとして、…男性…が楽天野球団と球場を所有する宮城県に約4400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁は24日、男性の請求を棄却した。
関口剛弘裁判長は「球場の安全対策は当然だが、観客にも注意が求められる。近年は内野席をせり出させた球場が好評で、臨場感はプロ野球観戦に欠かせない要素。過剰な安全施設はプロ野球の魅力を減らす」と判断の前提を示した。
その上で「(Kスタ宮城の)内野フェンスはプロ野球開催球場の平均的な高さで、ファウルボールへの注意喚起も行われている。安全対策は十分だった」と判断。「プロ野球観戦では臨場感を確保する必要がある。フェンスを高くするなどの措置は、臨場感を損なうことになりかねない」と述べた。
判決によると、男性は…三塁側内野席で試合を観戦。2回裏の東北楽天の攻撃中にファウルボールが右目を直撃し、搬送先の病院で眼球破裂と診断された。

http://www.kahoku.co.jp/news/2011/02/20110225t13011.htm

判決自体には異論は無いんだけど、原告が世間でやたら叩かれてて、まぁそれはわからんでもないんだけど。
この訴訟は提起時にも記事になってて、うろ覚えだけど、原告は、危険が付きものであればこそ保険(チケット代に上乗せ)を用意するなどの分散措置を講ずべきであり、訴訟は球団に検討を促すための方便(真理を導く手段)、という旨のコメントをしてたと思う。それは成程と思った。
ちなみにファウルボールの怪我についてはNPBの試合観戦約款に規定がある。

NPB試合観戦約款第13条(責任の制限)
① 主催者及び球場管理者は、観客が被った以下の損害の賠償について責任を負わないものとする。但し、主催者若しくは主催者の職員等又は球場管理者の責めに帰すべき事由による場合はこの限りでない。
 (1) ホームラン・ボール、ファール・ボール、その他試合、ファンサービス行為又は練習行為に起因する損害
 (2)〜(6) 省略
②,③ 省略

判決が安全対策の十分性を検討しているのは、球場の安全対策が不十分であれば約款13条但書によって免責されないからだと思う。

■婚姻届受理の訴え却下=夫婦別姓訴訟で一部判決−東京地裁
夫婦別姓を認めない民法の規定は憲法違反だとして男女5人が起こした訴訟で、東京地裁は24日、別姓のまま提出した婚姻届を受理しなかった処分を取り消すよう求めた訴えについて、却下する判決を言い渡した。5人は計600万円の慰謝料も請求しており、同地裁の別の部で審理される。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011022400816

他の新聞社でもこんな感じだったから、「婚姻届不受理処分取消請求」だったんだろう。
現行法を基準に考えるならば、そもそも「受理」という概念が認められないので(行手法7条)、婚姻届の提出によって行政庁には応答義務が生じており、申請に対する不作為が問題になることになる。
この場合、提起すべき訴えは不作為の違法確認の訴え(行訴法2条5項)及び申請満足型義務付け訴訟(同6項2号)ということになり、「不受理処分」に対する取消訴訟ではない。だから訴えは却下されるべきことになる。
(ただし行訴法も行手法もわりと新しい法律なので、本件がどうかは知らない。)
っちゅう感じだろうか。新司法試験では行政法が試験科目になっているため(そして訴訟選択は定番問題のため)、新試世代は行政訴訟にやや詳しいんだろうけど、旧試では行政法は試験科目じゃなかったはずなので、もしかしたらベテラン弁護士でもあまり詳しくないかもしれない。なので、もしかしたら弁護過誤かな〜とか思わなくもない。
まぁ、実際どうして却下されたのか解らないので判決読みたいけど。

*1:その意味で、ちょっと前に出た仙台地裁平成22年6月30日判決が不適切医療行為から直ちに期待権侵害を認めてた気がしたけど、あの判決は微妙い。書いてた→http://d.hatena.ne.jp/casm/20101011